「ここまでできるんだ!」と驚いた――人生を支える介護の現場へ

2016.5.11

ファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんは、日本一、介護施設を見学してきたFPだと思います。国内のみならず海外にも視察に行き、ある意味、「介護施設見学のプロ」。そのプロが、こんなふうに声をかけてくれました。

「私が認知症になった時に入居しようと思っている施設があるの。今度見学に行くけど、一緒に行く?」 そりゃあ、行きますとも! 二つ返事で新幹線に乗って向かった先は、広島県福山市。そこには、”介護施設”という言葉だけでは表現しきれない空間が広がっていました。

駅のホームから福山城が見える!

3つの事業部で構成されるQOLサービス

広島県福山市にあるのは、株式会社QOLサービスです。まずは下記の地図をご覧下さい。介護に関する施設がズラリと並ぶ、一大介護拠点です。

拠点の大きさが一目でわかる掲示板

株式会社QOLサービスは、大きく三つの事業部に分かれています。

一つ目は、根幹となる介護事業部です。老人ホームなどの「入居系サービス」、自宅で暮らす方を支える「在宅系サービス」、そして介護を必要とする方とそのご家族を支える「居宅介護支援事業所」の三つを柱としています。

二つ目は、介護情報を発信する「出版・メディア事業部」です。なかでも『月刊DAY』は1999年創刊で、全国の通所施設の約半分で愛読されているといいます。

三つ目は、教育事業部です。最新の介護・福祉に関する研修を行っており、北は北海道から南は沖縄まで、全国から毎年1000名を超える介護・福祉従事者が、最新の情報と技術を学ぶために福山へ集まってきます。

介護の現場、情報発信、そして人材育成。この三つを一体として展開しながら、日本の介護業界を牽引している場所――それが、ここ株式会社QOLサービスなのです。

介護とは、人生を支える仕事

QOLサービスの社長、妹尾弘幸氏は、こう語ります。

介護は、食事や入浴、排泄といったADL(Activities of Daily Livingの略で日常生活動作の)を支える仕事だと思われがちですが、そうではありません。目の前の方が「どんな人生を生きたいのか」に寄り添い、それを実現していく仕事です。たとえば、「お彼岸にお墓参りへ行きたい」という願いがあれば、そのために必要な体力づくりや、準備として花壇で供える花を育てることも一緒に進めていきます。そうした一つひとつの積み重ねが、その方の楽しさや生きがいにつながります。生活の先にある人生まで支える――だからこそ、介護はやりがいのある楽しい仕事です。

この言葉を聞いたとき、筆者は「介護」という仕事の見え方が、少し変わった気がしました。ADLのお手伝いなのではなく、その人が「どう生きたいか」を一緒に見つめ、叶えていく仕事。そこには、一人ひとりの人生に寄り添ってきた物語があると感じました。

日本初・総合共生型施設「アクティブワン」

QOLサービスの拠点を丸1日かけて、見学させて頂きました。最初に訪問したのは、日本初の総合共生型施設「アクティブワン」です。

アクティブワンでは、介護保険を利用する高齢の方はもちろん、障害福祉サービスを利用する方、そして子どもたちまでが、同じ空間で時間を過ごしています。「一人ひとりの人生に寄り添いたい!」という理念を、具体の形にまで落とし込んだ場所と言えるでしょう。

出会いがあるエントランス

では、さっそく中に入ってみましょう!

6mの一枚板テーブルと大迫力の大画面パネル

2階のエントランスホールに足を踏み入れると、最初に目に入るのは、大きな一枚板のテーブルと迫力ある大画面です。この空間は、施設の利用者だけでなく、地域の人たちも気軽に立ち寄り、交流できる場所として開かれています。

一つとして同じ椅子はない。その理由は、「身体の状態は人それぞれ」だから。

大画面の横目に進むと、その先にはカフェが広がります。

介護施設の中にあるとは思えない、いい意味で「普通」のカフェ

その方に合わせたカップ&ソーサーで提供される一杯。まるで高級カフェみたい! 

エントランスでは、ソファーや椅子で思い思いの時間を過ごしている人がたくさんいました。そこには介護施設という枠を超え、街中の日常のような時間が流れています。

元気になるお風呂

のれんに引き戸の「元気になるお風呂」。

エントランスと同じ2階には、「元気になるお風呂」があります。スーパー銭湯のようなネーミングですが、訪問入浴に対応したエリアで、17もの入浴設備が設けられています。

内訳は、個別に対応できる個浴が11室、シャワー室が4室、そして複数人での介助が必要な方のための特浴室が2室。入浴設備の数だけでも、デイサービスという枠に収まらない規模なことがわかります。

そして、のれんと引き戸に迎えられた瞬間、「入浴はケアでありながら、楽しみでもあるのだ」と気づかされます。

シャンプーもいろいろ

シャンプーひとつとっても、「その人に合わせて選ぶ」という考え方が貫かれていました。

燦燦の湯

燦燦の湯と名付けられたお風呂を覗いてみると、そこにあったのは「できる形で入浴を楽しんでもらう」という理念が設備まで落とし込まれた空間です。

身体の状態に合わせて入浴できるよう、手すりや移乗補助の設備が配置されています。
信楽の湯

介助が必要な方のための入浴施設というだけでなく、信楽焼きの湯舟など趣味性の高い浴室もあります。

手で触りたくなる浴槽。浴槽にタイルの色も合っている。

テーマと工夫がある17のお風呂を、感嘆の声をあげながら見学していると、案内してくださった方が「まだまだありますから、少し急ぎましょう」と笑いながら声をかけてくれました。

アクティブワン 小規模多機能

2階には、小規模多機能もあります。小規模多機能(小規模多機能型居宅介護)とは、通い・訪問・泊まりを組み合わせながら、自宅での暮らしを支える介護サービスです。月額定額制で利用できるため、いわば「介護のサブスク」のような仕組みともいえます。

特徴は、その人の暮らしに合わせて、柔軟に関われること。家事や趣味など、日常の延長線上にある活動を大切にしながら、生活する力を衰えさせない。場合によっては、少しずつ取り戻していく。「できること」を奪うのではなく、その人が本来持っている力を生かしながら、自宅での暮らしを支えていく介護です。

「居室」のようなインテリアが印象に残る

2階にはこのほかにも、キッズスペース、絵本・漫画・DVDのライブラリー、セミナールームなどがあり、「ここで丸一日過ごしたい!」と感じるほどの充実ぶりです。(写真提供を相談してみるつもりです)

屋上庭園もある「シーズンテラス」

アクティブワンの3~5階は、入居施設があります。お値段は部屋の広さによって異なりますが、3・4階だと、住居費・食費・メンテナンス料を合わせた月額基本利用料が約20万円前後です。

3Fにある屋上庭園

屋上庭園は、池には鯉が泳ぎ、四季折々の草花が咲くという本格的な「庭園」です。地域の中では高い建物なので、見晴らしも最高です。

ダイニング
ホール

ダイニングやホールといった共用設備には、家庭で使うような家具で空間づくりをしています。家具や調度品は、インテリア好きな筆者からすると、「これって、〇〇のですよね」と名品が使われていることに驚きます。高齢者施設というよりも、インテリアに興味がある個人宅といった趣です。

月額基本利用料が約23万円前後の設定の5階は、完全に「マンション風」です。

5Fは、外玄関の完全独立タイプ。
湯舟がある浴室を居室内に完備

5Fは、居室内浴室を完備し、高級感あふれていました。

また、5Fには隠れ家的なラウンジもあります。家族、夫婦などで入居者は年1度無料で利用ができるそうです。(2回目以降は有料)

大型のワインクーラー完備

リハビリ・トレーニングが充実した1階

そして1階には、充実のリハビリ施設があります。その広さは、一周およそ100メートル! 歩くことそのものが自然と運動になる設計で、居住者は毎日利用が可能です。そう、「リハビリ」と「生活」が切り離されていないのです。

館内には、ゴルフやドライブのシュミレーター、麻雀や卓球、ビリヤード、カラオケまでそろっています。クラフト制作や調理教室も行われていて、「やらされる訓練」ではなく、「やりたいことの延長にある活動」が日常になっています。

珍しい設備もたくさんありました。たとえば、牽引リフト付き卓球スペース。天井懸垂装置があるので、歩行困難な方も卓球にチャレンジすることができます。

脳疾患を抱えた比較的若い利用者が、ドライブシュミレーターを活用しながら運転感覚を取り戻し、社会復帰を目指すこともあるそうです。病院や自動車学校と連携し、現実の生活へとスムーズに戻れるよう支援が行われています。具体的には、シュミレーターによる分析を通じて課題を可視化し、運転に必要な力を一つひとつ取り戻していく――そんな訓練が積み重ねられているそうです。

畠中雅子さんがゴルフシュミレーターを体験中

ゴルフシュミレーターは、世界各地のコースをいながらにして体験できます。グループでのトーナメントも可能だそう。

カラオケはストレス解消だけでなく、喉のリハビリや呼吸機能改善にも役立つのだとか。設備が整っているのはもちろん、部屋の雰囲気づくりも徹底されています。

カラオケルームの入り口にはビートルズ
足湯が7カ所!

さらには、足湯まであります。のんびりと足湯を楽しんだ後は、専門のフットケアを楽しめます。

ここを利用される方は、脳疾患やパーキンソン病など、それぞれの状態に応じたグループに分かれ、専門的なプログラムに取り組んでいます。そのプログラムは一度つくって終わりではありません。専任チームによって継続的に見直され、常にアップデートするそうです。

いかがでしたでしょうか? 日本初の総合共生型施設「アクティブワン」は、単に「設備が整っている」という言葉では言い表せないものでした。リハビリも、入浴も、食事も、遊びも――すべてが分断されることなく、「その人の人生の延長線上」に置かれている。その設計こそが、この場所の本質なのだと感じました。

次回は、この施設を運営する株式会社QOLサービスの入居系サービスに焦点を当て、その全体像と特徴を整理しながら、「暮らしの場」としての介護のあり方を考えます。

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