2014.3.8
一言で、「高齢者施設」といっても、その形態は多種多様です。「いざ、介護!」となった時に慌てないよう、介護予備軍の私が、3タイプの施設に足を運び、お話を伺いました。
前編の住宅型有料老人ホーム「ひなの家」に続き、後半では、小規模多機能ホーム「ひなの家 押野」と、医療依存度が高い方向け住宅型有料老人ホームである「ひなの家ナーシング金沢末町」をご紹介します。
目次
小規模多機能ホームとは、「通い(デイサービス)」「訪問(ヘルパー)」「泊まり(ショートステイ)」と、バラバラに提供されがちな在宅での介護を、1つの事業所でワンストップで提供する介護サービスです。
料金は月額定額制で、いわば介護のサブスク
ー 「介護のサブスク」のイメージを、もう少しご説明頂けますか?
受けられるサービスは、介護保険の規定サービスであれば何でも大丈夫です。通常の介護保険のサービスの場合は、「1回行ったら、〇時間の間を置かなければいけない」といった細かい規定がありますが、そこは関係ありません。(株式会社スパーテル執行役員の坂井賛瑛美さん・以下同)
ー 極端な話ですが、1か月の31日、毎日サービスを受けるといったことや、1日2回のサービスを受けるといったことも可能ですか?
はい、大丈夫です。ただし、小規模多機能ホーム専門のケアマネージャーがケアプランを立てるので、通常の介護サービスとの併用はできません。
ー どんなご依頼があるのでしょうか?
介護関連はもちろんのこと、これまでご依頼頂いたものでは、「灯油の給油を手伝って欲しい」「(認知症があるので)猫の餌を置いた場所がわからなくなったから、一緒に探して欲しい」「金庫の鍵がなくなったので一緒に探して欲しい」といったものもありました。
また、私たちは、「近所まで来たので、ちょっと顔を見にきました」といった安否確認も行っています。
ー イメージとしては、近所に住む親戚という感じですね…。
はい、「小規模多機能ホーム」という枠組み自体が、とても画期的なサービスだと思います。難点としては、対象者が限られてしまうことです。「ひなの家 押野」であれば、野々市に在住しており、上限29名までの方が登録の対象となります。サービスを希望される方が多いので、どうしても待って頂く方がいらっしゃいますね。
それでは、実際にホームに入ってみましょう。
玄関を入ると、すぐに食堂・機能訓練室を兼ねるオープンスペースがあります。落ち着いた色合いの家具が配置され、たっぷりとした広さがあります。
ここでは食事やレクリエーション、そして地域の方との交流も行われるそうです。
オープンスペースの横には、まるで民家の一角のようなソファースペースがあります。
ここに登録者されている方は、全部で29名(取材時)。そのうちデイサービスを利用しているのは18名と、文字通り、小規模なコミュニティです。
ショートステイ用の宿泊室は、全部で9室あります。
そのうち3室は、ふすまで仕切れる和室となっています。
高齢者の方の中には、デイサービスには喜んで行くものの、ショートステイを嫌がる人も多いそうです。
ひなの家押野の管理者、梶るりさんは、言います。
「和室で利用者さんと職員でお布団を並べて敷いて雑魚寝をしながら、『温泉旅館に来たみたいだね』と、ショートステイを楽しむこともあります。デイサービスでの日頃の信頼関係が、ショートステイに繋がるんです」
梶さんのお話から、高齢の方がショートステイする際には、「安心できる介護者がいる・いない」で、大きく違ってくることが伺われます。
宿泊機能があることで、一人暮らしの方の夜中のSOSにも対応できます。
「たとえば、夜中に『悪寒がするんだけれど』と電話を受ければ、その場でスタッフがご自宅にかけつけて、ホームまでお連れします。そして、次の日、スタッフが一緒に病院を受診します。こうした対応ができるよう、スタッフは24時間体制でスタンバイをしています」(梶さん)。
病院から退院する時にも、宿泊室が一役、買います。
「宿泊室で生活しながら、『家に帰って生活できるのか?』をアセスメント(★)するんです。まずは、一泊、自宅に帰ってみる。それが大丈夫だったら、次は、二泊自宅に帰ってみる。自宅での生活を段階を踏んで再開することで、当初は想像しなかった課題が見つかることもあり、介護のプランが練れていきます」(梶さん)
★アセスメント : 本人と周囲、両者の視点で、症状や状態を把握し、必要な対応や処置、サービスについて検討・判断すること。
ひなの家押野では、高齢者の生活をさまざまな角度から支えています。
栄養バランスが考えられ、彩も美しいお食事を、みんなで食べる…。1日に1回、そんな時間があるだけでも、安心です。
これだけの品数を自宅で手作りするとなると大変です。私もお昼ご飯をご一緒させて頂きましたが、どれもが本当に美味しかった! 食事を一緒にとることで、安否確認や状態の確認もできるでしょう。
お料理はホームの中にある台所で調理します。
食事代については、通常の介護サービス同様、1食ごとの換算です。たとえば、「お昼ご飯を食べた後、翌朝10時までの1泊のデイサービスを利用した場合、昼・おやつ・夜・朝の食事代金が発生します。
お風呂は、2パターンあります。一つは、機械浴も可能なお風呂です。
もう一つは、民家のようなユニットバスです。
「お風呂は、職員一人で一連の流れを全部、担当します」(梶さん)。
お風呂でも、次のような「小規模多機能ホームならではの良さ」が、発揮されていました。
「デイサービスだと、『〇時間いたら〇〇円』といった換算方法になるので、『お風呂だけ入って30分で帰る』といった利用の仕方は難しいんです。けれども、ここではそれが可能です。お風呂にだけ入って帰るという人は、男性に多いですね」(梶さん)
高齢期になると、お風呂に入るのが億劫になるという話はよく聞きます。「お風呂に入る」という習慣を続けられる仕組みがあるだけでも、QOL(クオリティ オブ ライフ)は違うと思います。
「ここで洗濯をして、自宅に持ち帰って干す方もいらっしゃいます。スタッフが御自宅まで送迎しますから、必要であれば洗濯物を干すお手伝いもできます。こうした、『ちょっとした生活支援』が小規模多機能ホームだとしやすいんです」
ちなみに、「デイサービスの送迎」という枠組みの中だと、帰り道に「病院に寄る」「ちょっとした買い物」といったことへの同行は請負えないそうです。
「けれども、私たちであれば、たとえば、洗濯物を干すお手伝いや、『帰り道に図書館に一緒に寄る』といったことができるんです」(梶さん)。
洗濯物を、干す。病院や買い物に行く…。「生活をする上での小さな用事」は、実はたくさんあります。
「高齢者の方は、漠然とした不安を抱えていますが、なかなか自分では行動することはできません。小規模多機能ホームであれば、スタッフが見守りをしつつ、必要な部分についてはサポートのご提案ができます」(梶さん)。
「小回りの利く支援」があることで、高齢期の「自宅で過ごす期間」を延ばせるのではないでしょうか?
「ひなの家 押野」は、高齢者が地域から孤立してしまわないような工夫もしています。
施設に隣接して100坪のファーム(畑)があり、家庭菜園で地域の方と交流をすることで、地域コミュニティに参加できるように考えられています。。
こんな工夫をするのは、地域の側から見ると、「高齢者の方が、どのように暮らしているのかが見えなくなっている」という状況が起こりえるからです。
「高齢者と地域を繋ぐために、私たちは、地域ケア会議にも参加しています。地域ケア会議とは、包括支援センターの責任者、私たちサービス提供者、家族、民生委員が参加している会議です。また、地域の催し物にお連れして、地域の人に会える。そういうことが大事だと思っています」(梶さん)
加齢とともに、「毎日の生活を送ること」が難しくなる。けれども、施設に入って完全介護を受けるほどではない…。
地域と関わりを持ちながら、自宅で生活を送ることは、その方が本来持っている力を失わないためにも大切なことなのではないか? と、感じます。
それを支える「小規模多機能ホーム」という仕組み、今後も目が離せません
最後にご紹介するのは、医療依存度が高い方向けの住宅型有料老人ホーム「ひなの家ナーシング金沢末町」です。
「ひなの家ナーシング金沢末町」をご案内下さったのは、前編でご紹介した北井智康さんです。
高齢期になると、下記のような医療処置が必要な生活を送る方も少なくありません。
医療処置としては、インシュリン注射、中央静脈栄養、点滴、胃ろうによるチューブ食、在宅酸素、人工透析 などがあります。また、医療ではありませんが、「減塩食など、食事の個別対応があるか?」も、その方が生きていく上で、とても重要なことです。(北井さん)
「ひなの家ナーシング金沢末町」は、医療対応型の強化施設として次の3つのコンセプトを掲げています。
①24時間看護師常駐の切れ目ない医療介護の支援体制
②"生きがい"を大切にした 『寄り添う医療』 の提供
③生活を意識したリハビリを行い、自立支援サポート
看護師が24時間常駐しているというのは、心強いと思います。
「生活の場に入って、看護を提供したい!」という看護師さんは一定数いるんです。そんな方が、当施設の看護を担当して下さっています。(北井さん)
入居者様の特徴は、「持病があること」をフックに選ぶ施設のせいか、平均介護度は2.8、平均年齢も70代と、どちらも低めです。
多くの介護施設は車椅子の方が目立ちますが、自立歩行をされている方が多かった印象です。家族の付き添いがあれば、外出制限もありません。
病気とうまく共存しながら、よりよいQOL(ライフ オブ クオリティ)を目指し、看護師が24時間する他、6名の医師と連携をとっています。(北井さん)
建物は、廊下を真ん中にして、両脇に居室が並ぶスタイルです。
実は、この施設は、てまりグループが建てたものではないそうです。たとえば、廊下の照明は、これから明るくなります。
なぜ、建物を引き継いでまでも、介護施設を開所したのでしょうか?
介護医療院(★)と介護施設の中間層をケアする施設は、多くのニーズがあるものの、この地域にはありませんでした。縁があって建物を引き継ぐことになった時、「医療強化施設として、勝負をしていこう!」と、思ったのです。
★ 介護医療院 医療を内包した老人介護施設。入所者は、要介護1~5の認定を受けていることが条件。持病があっても、介護度の低い人は入所基準を満たすことができない。
この施設の運営母体の「てまりグループ」は、挑戦すること。あたらしい「ありがとう」をつくることを掲げています。
挑戦すること。あたらしい「ありがとう」をつくること。
てまりグループ会社概要より抜粋
私たちは、人の間にある想像力を、無限の可能性を、挑戦する心を創造し、事業を展開していきます。これまでなかった「ありがとう」をもっと、人の間へ。私たち一人ひとりが、それぞれの場で、それぞれのあたらしい「ありがとう」をつくっていきます。
そんな「てまりグループ」らしい経営判断だと思いました。
今回の見学は、株式会社スパーテル 代表取締役 橋本昌子さんと御縁ができたことで、実現しました。
昨年の夏、韓国の老人介護施設見学ツアーに参加し、「祖父母の看取りに心残りがあったことが、老人介護施設を立ち上げようと思ったきっかけなの」とおっしゃる橋本さんと出会いました。橋本さんからは、「介護を通じて、人の生きるを支え、地域の元気の基礎を築こう!」という前向きなパワーを感じました。
介護という言葉に、後ろ向きなイメージがあるのは、私だけでしょうか?
高齢期に詳しいファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんと一緒に新幹線で金沢まで行き、施設を見学させて頂けて本当に良かったです。
なぜなら、橋本さんの経営理念がすみずみまで行き届いた介護施設を、自分の目で見ることができたからです。
てまりグループでは、仕事を志事と書きます。そして、てまりグループのバリュー(価値)は、「誠実と思いやり」、「人への敬意」、「日々の研鑽と実践」、「能力を高め合う心」「革新への挑戦」です。
バリューを志事に活かして実践している方たちを目の当たりにして、大きな希望を感じました。日々研鑽を積みながら介護という志事をしている方々のことを発信することで、介護に対する概念を変えていく一助を担えると嬉しいです。
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